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『桜とは何か 花の文化と「日本」』

 4月の読書記録・佐藤俊樹著『桜とは何か 花の文化と「日本」』 感想をまとめると以下の2点 1. 中国における花=「内なる内」としての牡丹、日本における花=「外なる内」としての桜、の対比は鮮やかであり説得的 2. 学問を学ぶということは、それがどれだけの苦痛を伴ったとしても、事実...

次の予定

 ひとまず読書記録の1冊目を終えてホッと一息。

次の本は加藤紘一著『テロルの真犯人』を予定している。昨年の安倍元総理銃撃事件、先日の和歌山爆発物事件を考えると17年前の加藤紘一宅放火事件を振り返った方が良いのではないかと考えているからである。

これ以上、政治に対する暴力・威嚇が起きないことを祈っている。

宮部みゆき著『レベル7』

 先週の日曜日に投稿するはずが1週間遅れになり反省。

言い訳をすると、国政補選があまりにも接戦だったためテレビ中継やネットでの情報検索にハマってしまい読書記録の作成どころではなかった。


気を取り直して初読書記録。


本書は全体として見れば記憶喪失ものミステリーに分類されるのだと思う。宮部みゆきという作家はミステリー作家に分類されることが多く、また本書も基本ラインは謎解きを中心に進むのだから。

しかし、私は宮部みゆきという作家を「バブル前後の時代・社会を切り抜く天才」だと考えている。例えば本書の『新日本ホテル』火災事件。これはもちろんホテルニュージャパン火災をモチーフにしている。そして1980年代に明るみになった宇都宮事件に代表される当時の精神医療の闇も本書のモデルの一つだ。

近年「失われた○○年」という言葉が取り上げられるにつれ、昭和の末頃から平成初期にかけての80年代・90年代がまるで輝かしい時代であったかのように語られるようになっている。例えば小学館が運営しているサイトHugKum(はぐくむ)ではバブル期について次のように説明している。

バブル経済に沸いた当時の日本では、好景気の恩恵にあずかる人が多かったようです。例えば、大学生の場合は就職活動がたいへん有利でした。

企業の業績がよく、新卒採用の枠を増やしたために「超売り手市場」となったのです。学生を集めるために、企業側がブランド品や海外旅行など、豪華な特典を用意することもありました。

会社員の給料やボーナスも右肩上がりで、福利厚生も充実しています。経費として自由に使えるお金が多かったので、豪華な接待やタクシーでの帰宅なども普通に行われました。

個人投資も活発になり、専業主婦が株で大儲けしたケースも珍しくありません。また、豊かになった人々がより良い住環境を求めたため、空前の不動産ブームが到来しました。」バブル経済が起きた理由や、バブル崩壊の原因までわかりやすく解説【親子で学ぶ現代社会】 | HugKum(はぐくむ) (sho.jp)

就職氷河期を経験し、長期のデフレが続いたあとの外的要因によるインフレに喘ぐ現在の日本からすればまるで天国のように見える記述である。

では本当に当時は天国のような時代だったのだろうか?宮部みゆきの小説は当時の市井の人々の暮らしが決して楽ではなかったことを示してくれる。『レベル7』では経営者の順法意識の低さや人権感覚の無さ。『火車』では現実の苦しい生活と社会の浮ついた空気感を縮める魔法の杖(カードローン)の闇。『理由』ではもっと直接的に、バブル景気が大半の人々にとっては他人事であり、それでいてバブル崩壊後の苦境はもともと生活の苦しかった人をさらにどん底に叩き落した点。

私自身が小学生時代にバブル経済を経験しているだけに、あの時代が決して天国ではなかったことを知っている。物の値段は上がり続け、庶民の生活は苦しかった。実際に当時のインフレ率を見てみると、第一次オイルショックの1974年につけた23%には及ばないものの、第二次オイルショック直後の1980年のインフレ率は7.81%翌81年は4.94%で、昨年(2022年)の2.5%の比ではない高さだった。その後一度はインフレ率も落ち着いたが、1990年91年はインフレ率3%を超えてしまっている。

(引用:世界経済のネタ帳 https://ecodb.net/exec/trans_country.php?type=WEO&d=PCPIPCH&c1=JP&s=&e=)


「専業主婦が株で大儲けしたケースも珍しく」なかったなどと聞けば皆が楽して儲かった時代のように思えるが、実際は妻が専業主婦になれるだけの給料を貰っているサラリーマン家庭で、尚且つ当時はまだ珍しかった個人投資をできるだけの元手(資金)がある人がさらに儲かっただけのことだった。1990年頃から共働き世帯が急激に増えていることから考えても、専業主婦が標準ではなくなりつつある中での話だと分かるだろう。なお、男女雇用機会均等法の施行が1986年である。(さらに書くと「鍵っ子」が流行語になったのは1965年前後のこと。)


また、経済的な面以外でも80年代から90年代初頭にかけては様々な問題があった。「管理教育」はその最たるもので、神戸の高塚高校で起きた校門圧死事件によって歪んだ管理の在り方が問題視されることとなった。管理教育が行き過ぎてしまった背景には70年代の暴走族ブームの影響もあったが、同時に当時団塊ジュニア世代が中高生になっていたことも関係している。急激に増える生徒数に対しそれまでと変わらない教員数で子どもたちをコントロールしようとした結果、行き過ぎてしまったのである。地域差はあったが、酷い所では丸刈りの強制や体罰といった人権侵害が横行していた。

このようにバブル前後の時代は多くの人にとって経済的に余裕があったわけでもなく、また人権意識・順法意識も現在に比べて希薄であり、今の基準で考えて「素晴らしい時代だった」と評価できるものではないのだ。そのバブル前後の空気感をしっかり、そして庶民の立場で伝えてくれる作家が宮部みゆきだと思う。
たかがフィクション、たかがミステリー。だが宮部みゆきが描くバブル期の日本には、浮ついていない浮つく余裕もなかった当時の市井の人々の生活感が現れている。

初読書記録は…

読書記録の最初から政治家の著書やビジネス書というのも如何かと考え、これまで読んだ小説の中から適当なものを選ぼうとしたのだが、これが意外と難しい。

人生で最も読んだ小説は宮部みゆきの『ステップファザー・ステップ』で間違いないのだが、文庫本の解説でご本人の弁として紹介されているように『ステップファザー・ステップ』はドナルド・E・ウェストレイクばりのクライム・コメディ。読書記録をつけるというよりも、あの軽快な話の流れに身をゆだねるべき代物。よって初物には不適格と判断し除外に。

「では何に?」と悩んだ結果選んだのが、同じく宮部みゆき著の『レベル7』。中学時代に初めて手にした宮部みゆき本。これを今夜再読(正確には再々々…読)した上で、明日読書記録をアップしたいと思う。


追記

D・E・ウェストレイクでお薦めは『踊る黄金像』。かつてNHK-FMの青春アドベンチャーでラジオドラマ化されたこともある作品。NYを舞台にしたドタバタ劇で、最後の最後まで❝犯人❞が分からないミステリ。多少冗長に感じる部分もあるが、ウェストレイクの作風に合う人には十分楽しめるはずなので是非ご一読を。

読書記録をつける理由

読書は基本的に自己満足である。ビジネス書籍であれ古典書であれ、あるいは小説であっても学習参考書であっても、だ。

人は何らかのものを得ようとして本を読む。何かヒントを得られるかもしれないが、何も得られないかもしれない。それが読書だ。

では、ななしネコがわざわざブログを開設してまで読書記録をつける理由は何か?

理由は2つある。

1つは後から振り返ったときのための備忘録だ。人の記憶は読了直後が最も鮮明で時間が経つほどに細部の記憶がぼやけていく。疑問に思ったこと、納得できなかった点等々。ひとまず書き記すことによって振り返りが可能になる。また、読んだ当初は腹落ちしなかった記述も後々理解できるようになるかもしれない。そのためにも記録が必要だ。

2つめは書く体力をつけるためだ。大学時代はゼミで毎月1冊の本を読み4,000字前後のレポートを課されていた。これは卒論に向けて書く体力を養う目的で担当教官がゼミ生に課していたのだが、実際卒業論文を書く際おおいに助かった。あれから20年ほど経ち長文レポートが必要とされない生活が続いてきた。しかし今後職場環境の変化が予定されているため、レポートを書く機会が増えると想定される。そのときに備えて読書記録で書く体力を養いたい。


chatGPTなどの生成AIの登場により、文章を書く能力が問われなくなる未来がそう遠くないうちに来るかもしれない。

しかし、文章を読む能力・書く能力は思考能力に繋がると私は考えている。ブログを書くことで少しでも思考能力の低下・老化を遅らせることができるならばラッキーだと思う。

初投稿

 ブログは大学時代以来です。20年近くのブランクになります。

お手柔らかにお願いします。