紹介してもらってから、読み終えるまでにかなり時間がかかった
紹介してもらえなければ、読むことなく終えてしまっていたであろう本
読んでよかったと思う
私はこれまでほとんど私小説を読んだことがなかった
他人の人生を読んでもつまらないと思っていたし、この考えはいまも基本的に変わらない
でもこの本は違った
感情描写のどこまでが、当時本当に思ったことなのか分からないけれど
それでも、あれだけ怪我を繰り返せば恨み辛みも当然出てくるよな、と思うし
中村監督への冷めた視線と温かな想いと、その2つが絡み合っていて
人が他人に対して何をどう思うか、はいつだって複雑なんだけど
その複雑さが本当に丁寧に描かれているなと思った
上巻に書かれていた、中村監督から新入生である金山選手への手紙
あの言葉を読んで、そして何度も著者が手紙について言及していた点も含めて、私はボスを思い出した
かなり長いけれど引用する
“何よりも走ることが好きであることが、貴君の一番の美点だ。この冬までに5,000メートルは15分10秒以内、1万メートルは31分そこそこで走れるのではなかろうか。フォームといい欠点だらけである。それだけ進歩する可能性がたくさん残されています。腰が前屈している。そのため膝が上がらない。膝が上がらぬと、重心が高く保てません。強いキックが得られぬので、スピードに乗りません。横から見ると、腰が引けていて、熊が歩いているようだ。今後、特訓をやり、この欠点を改めましょう。欠点が改められたら、急速に5,000、1万の記録が向上します。現在の熱意が今後何年続くか、興味のある所です。なんとしても5,000を14分台、1万を30分台に入るよう、全力を尽くしてください。貴君が走っているのを見ると、昔からどのように練習をしてきたかがよく分かる。気の毒なほど泥臭いフォームである。しかし、貴君の練習全部に表裏がない、一生懸命そのものである。神様は見えないが、もしこの世におられるなら、最後は立派なWのマークを付けた、早稲田の中堅選手に育てて呉れるでしょう。同好会出身の半端選手でも努力して、名門早稲田の選手を打ち負かしてください。練習は、泣く泣くやるものではなく、歓喜力行すべきものです。どのくらい喜び、そして求める心があるかが、強くなる命である”
(『冬の喝采 運命の箱根駅伝(上)』より)
私はこの業界に入ったのが本当に遅くて
初めて税理士試験を受けたのが29歳
途中大きな回り道もして、全く試験を受けなかった時期も数年あって
官報合格が38歳
そしてそれからもまた業界を離れていた時期があって、いまこの歳で登録しようとしている
その意味で、私は本当に“半端”な人間で
そんな私でも、一生懸命仕事に向き合えば事務所の力になれると教えてくれたのがボスだった
ボスは中村監督のようにキレ散らかす人ではなく
かなり温厚というか、穏やかというか
でもたまに眼光鋭くなるときがあって
それが分かっているだけに、決算報告などはいつも怖かった
そしてボスから何か指摘されるとその指摘はいつも的を射ていて、あとから悔しさのあまり内心のた打ち回っていた
いまでも、拾ってもらったこと、育ててもらったこと、仕事を任せてもらったこと、ずっと感謝しているし
だからこそ、ずっと申し訳なさがある
話を戻す
著者の人生は確かに、普通には無いような数奇な“運命”に導かれているけれど
この本の魅力はそんなレア度によるものではなく
どんな人の心のなかにも生まれてくる葛藤や苦しみ、ちょっとした優越感や誇りを、細かく丁寧に描写したところなんだろうなと
私はそう感じた